本人意思の実現:市役所と葬儀社が連携

2015/07/02

横須賀市は7月1日より、生活にゆとりがなく身寄りのない独り暮らし高齢者の為の終活支援サービスとして「エンディングプラン・サポート事業」をスタートした。

福祉葬・市民葬という形で行政が葬儀サービスの企画や指定業者の設定に関わる例はあるが、費用の預託を含む生前予約や本人意思の保管や伝達といった機能を行政と民間業者それぞれの特性を活かして組み合わせるといった高度な連携は、全国的にもめずらしい試み。

参考事例があまりない中、生活困窮者支援の現場の課題を見つめてきたからこその視点で数々の困難を乗り越え、企画の実現にこぎつけた横須賀市福祉部自立支援担当の北見担当課長にお話をうかがった。

宮木 章太

 

「エンディングプラン・サポート事業」
「エンディングプラン・サポート事業」の説明資料(2015年7月1日現在)

 

 

支援の対象は、生活困窮で身寄りのない独り暮らし高齢者

生活困窮で身寄りのない独り暮らし高齢者65才以上を今回の事業のメインの対象とする。夫婦ともに身寄りがなかったり、余命宣告を受けている生活困窮者も対象。
この層は、年々加速度的に増えており昨年は市内で50人が新たに発生した。今後20年の累積では、1000人程度には上るだろう。

 

対象層の希望や不安

これまで、市の生活困窮者対応の窓口として多くの対象層の方々や民生委員と言った関係者の方々と接触してきた。そこから見えてきた、死の前後に関する皆さんの希望や願い、不安をざっとまとめるとおおよそ以下の内容。

「独り暮らしで身寄りがなくても、緩和医療や延命治療に関する自分の意思(リビングウィル)について、希望を聞いて実現してほしい。」
「ちゃんとお葬儀してあげたい。」
「ご供養のない市の納骨堂で良いのか?」
「日々の生活が苦しくても、葬儀代としてなんとか通帳にお金を残してきている。少ないながらも苦渋の想いで溜めたお金でちゃんとした葬儀・納骨をお願いしたい。」
「独り暮らしで身寄りのない状態で通帳にお金を残しておいても、亡くなったら誰がおろして、誰が葬儀社を手配してくれるのだろう?」
「葬儀やお墓といった供養ごとについて聞きに行きたくても、市役所にはその解決策について相談できる窓口がない。」
「(民生委員として)故人の友人や、連絡がつかなかった親族から、どこに納骨されているのか、と聞かれることがあるが、窓口が分からない。」

 

これらの課題解決が困難な背景事情

・独り暮らしで身寄りのない方が亡くなると銀行口座は凍結され預貯金は引き出せなくなる。いくら残高が残っていても、それらを葬儀や納骨の代金に充てることはできない。
このため、多額の残高がある場合であっても生活保護の葬祭扶助を市役所が支給し、火葬(直葬)が行われ、そして遺骨は市等の無縁納骨堂(政教分離の関係から僧侶による供養は行われない)に入ってしまう。即ち、供養ごとに関する本人の希望が別にあったとしても、結果的には一切反映されないこととなる。

・独り暮らしで身寄りがない場合、医療機関にリビングウィルを伝える担い手がいない。

・独り暮らしで身寄りがない場合、葬儀お墓に関する生前契約を適切に受け、いざという時にその通り手配してくれる担い手がいない。

・葬祭事業者が「生前契約を受けたい」と考えても、独り暮らしで身寄りがない方については、入院・入所などで消息が分からなくなる危険性があるので、履行・解約・返金のいずれにも困難が予想され、容易に生前契約を受けることはできない。

・一方、市役所側の事情としては緊急時の際のリビングウィルの伝達を担おうにも、夜間や休日の関係から365日24時間対応は不可能。

・生前契約で重要となるお金の預かりについても、地方自治法で、市役所が預ることはできないと決められている。

 

また、対象層の高齢者の葬儀や納骨先についての漠たる不安を抱える方の中には、生活困窮の中にも関わらずまたその希望に沿って使われない結果となる場合が多いにも関わらず、相場観がないままにいくら貯めても安心ができず貯蓄最優先となってしまうことがある。これにより生活を少しでも快適にするような家電(クーラーなど)の購入すら諦めてしまうという不幸が発生しがちである。
生前にある程度の希望を実現する葬儀等の契約をしておくことで安心が得られ、それを超えるお金については生きている間の生活を豊かにする方向で活用できるのではないか。

 

今回の支援事業は、リビングウィルと供養ごとの本人意思の実現が核

今回の支援事業のポイントを流れに沿って説明する。

・市は、相談をお受けし、対象者か否かを判断する。
(ひとり暮らしで身寄りのない生活困窮者が対象。それ以外は、基本的に法律専門家の民間領域になるので、弁護士会・司法書士会の支部を紹介することになっている。民業圧迫は避けなければならない。)

・対象者には、「対象者連絡票」を手交する。

・対象者本人は、この「対象者連絡票」を持って、市(福祉部自立支援係)に協力を申し出たエンディングプラン・サポート事業の協力葬祭事業者(現在は8社)を訪れ、自分で事業者を選択し、葬儀・納骨に関する生前契約を行う。またその費用も契約した葬儀社に預ける。

・市(福祉部自立支援係)と上記生前契約を行った葬儀社の双方で、本人のリビングウィルの内容と供養ごと(葬儀と納骨)に関する契約書を保管する

・市は、その契約書に基づいて支援プランを立てる。

・市は、本人に上記を簡単に記録したカード(小)とカード(大)を発行する

・本人には、カード(小)を常に携帯してもらい、カード(大)は玄関周りに貼っておいてもらう。

・病院等は、カード(小)または(大)を見て、市役所又は葬儀社に連絡することで、本人の緊急事態の際にリビングウィルの内容を迅速に確認できる。
また、市役所が閉まっている時間帯でも、葬儀社は365日24時間対応の体制を取っているので、病院等の要請に応えることができる。

・病院等は、本人死亡時にはカード小・カード大を見て、市役所または葬儀社に問い合わせることで、本人が希望した支援プラン(供養ごと(葬儀と納骨))が実現される。

・市役所は、支援プランどおりに供養ごとが進行し終了したかを確認する。
また、市役所は納骨先情報を5年間保管する。これによって知人等も納骨先を知ることができる。

支援の流れ
支援の流れ
登録カードサンプル
登録カードサンプル

 

今回の事業はどういった点がポイントなのか?

実効性の高いリビングウィルの実現と、本人の資産をより本人意思に沿って活用するという、これまでにない価値を産み出すこの事業であるが、なにがポイントになってこれらの実現につながるのかを整理したのが以下。

・365日24時間、医療機関にリビングウィルを迅速に伝達することができるのは、葬祭事業者しかいない。葬祭事業者が生前契約に伴ってリビングウィルを預かることで、ひとり暮らしで身寄りのない高齢者のリビングウィルの実現可能性は、飛躍的に高まったと言える。

・民間事業者ではアクセスできない情報を管理する行政、すなわち市役所が関わることで、本人の所在や消息確認が担保される。
また、緊急入院時などで必ずしも本人がカードを持っていない場合であっても、病院等から市役所に費用負担の兼ね合いから必ず問い合わせが入る。その時点で病院等は確実に当事者情報を把握することになる。これによりリビングウィル及び供養ごとに関する本人意思の実現可能性が飛躍的に高まる。

・全体を市役所が見守り・寄り添い・見届けることで、取引の健全性と利用者から見た信頼性が高まることで利用が広く促進される。

 

これまでの市民葬及び福祉葬との違いは?

葬儀に関する行政の関わりとしては、これまでも市民葬及び福祉葬といったものがあった。行政によるサービスの規格化と対応事業者の認定と紹介がその中身であるが、今回の事業は以下の点においてこれらと異なる。

・預り金を伴う生前契約であること

・葬儀社が、供養ごとのみに限らずリビングウィルも含む本人の意思の預かり手・伝達者として機能する。すなわち社会の公器という側面をより強く持つこと

・市役所発行のカードという伝達ツールがあることで、本人にとっても救急隊にとっても病院にとっても生前契約済みの葬儀社にとっても、安心できる安定運用が可能になること

・葬儀社と市役所との緻密な連携サービスという、いわば「官民協働」であること

・医療機関等にとっても、リビングウィルの有無内容の把握、亡くなった後の対応に関する連絡先の把握など、様々なメリットがあること

 

残された課題は?

もちろん、まだきちんと解決されていない課題はある。これらは制度を回しながら発展させることで、克服に向かっていきたいと考えている。

・預かり金の安全性・確実性の担保
今回のスキームでお金を預かるのは民間の葬儀社である。市による監視や牽制は当然にあるが、それでも理論上また実際上も倒産や流用といったリスクはないとは言えない。(参照:横須賀市「エンディングプラン・サポート事業」 その2

・本人の消息や所在地確認に関する課題
市外に転出した場合に、他の地方自治体に照会することになるが、他の自治体が理解を示してくれるか。(調査・照会・連絡・問合せに関する本人同意書を市役所があらかじめ取っているので、照会自体はできるのであるが。)

 

今後の展望

今後はやはり預り金のリスク問題をなんとかしていきたい。
具体的にいえば、社会福祉協議会による預かりを実現したいと考えている。

すでに一部の社会福祉協議会やNPO法人では、会員制度で事業化している所もある。しかし、預かり金の管理コストや預かり手続きコストが高いため、生活困窮者はなかなか契約できない実態である。
この点、自立支援法による補助金が出れば本人負担が減り、困窮者についても社会福祉協議会などでの生前預託を実現できるかもしれない。

もちろん、これが実現した場合も、市役所は相談窓口として、また親族や病院等からの本人の所在確認等の問合せ先機関としての役割を担い続ける必要があるだろう。そうすることで、社会福祉協議会も、安心して預託事業を受託できるのではないかと思われる。
また、社会福祉協議会が契約費用を預かったとしても、葬祭事業者には、リビングウィルの問合せに対する365日24時間対応という重要な機能がある。

これらを考えあわせると、市役所-社会福祉協議会-葬祭事業者の3プレイヤーがそれぞれの強みを生かし、業態を超えて連携・協働するスキームこそ、向かうべき未来像だと思われる。

現場のケースワーカーさんに大小のカードを見せていただいた
横須賀市役所カウンター前にて、大小のカードをケースワーカーの方に見せていただいた。