もし、死後もその場にとどまることができるなら

2016/01/14

 

死んだ後もしばらくは意識がその場にとどまる、ということが現実に可能なら。残された人の自分に対する本当の気持ちがわかるかもしれません。

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夜中のうめき声

私が外科病棟に入院した時の話です。手術が終わって抜糸を待つばかりでしたが、感染症が心配だったので、差額ベッドの二人部屋を利用しました。病棟は二人部屋、個室と大部屋が分かれて配置されており、私の向かいの病室は個室でした。

消灯の時間を過ぎてしばらくすると、フロアはしんと静かになります。なかなか寝つくことができないのでぼうっとしていると、向かいの部屋からうめき声が聞こえました。看護師の行き交う足音とざわめき、大きなうめき声が断続的に続きます。隣のベッドの女性が、怖いので明かりを少しつけても良いかと尋ねました。

「ああなると、もうすぐなのかしら…」

その方は、翌日が検査、その次の日が手術とのこと。全身麻酔が必要な大きな手術なのでああいう声は聞きたくないし、他人事ではない、と言いました。

 

看取りの声が聞こえる

翌日、向かいの個室には患者さんご家族や親せきが集まっている様子で、人の出入りが多く、あわただしさは消灯後まで続いていました。夜の10時を過ぎた頃、ご家族なのでしょうか「お父さん!」「お父さん!」と懸命に叫ぶ声が聞こえました。「戻って来て」「頑張って」と大きな声で呼んでいます。泣き叫ぶ声が聞こえます。そして、その声が途切れました。しばらくして、

「お父さん、ありがとう!」「頑張ってくれてありがとう!」と大きな泣き声が聞こえてきました…。

「ありがとう、って見送られるのっていいわね。死んだ後にそういう声が聞こえているといいわね」と隣の女性がつぶやきました。自分はもう70過ぎでいつ迎えがきてもおかしくはないのだけど、できれば家族に見守られてあんな風に送られたい、と言いました。

さらに時間が経って、ご家族の方が病室から出てくる声が聞こえました。すると…

「せっかく東京に出てきたんだから、みんなでどこか行こうよ」と明るい話し声が聞こえてきました。「そうだねえ、久しぶりだしねえ」「お葬式はいつかしら、仕事があるのよ」

あまりにも先ほどの悲痛な声とのギャップがあったので、私が「えっ」と声を出すと、隣の女性が「まぁ、実際はこんなものかもしれないわね、死んだ後にその場にとどまるのも考えものだわね」と言って小さく笑いました。

この記事を書いたライター

本間 純子
本間 純子

「色々なことがあったけれど、悪くない人生だった」と要介護の父、持病がある母に思ってもらえれば。そう願って、時には激烈なケンカをしながら一緒に暮らしています。
老いや病気はきれいごとでは済まないこともありますよね。それでも前に進んでいかなければなりません。人生の先輩方や支える家族の方々が、できるだけ元気で楽に暮らせるような情報をお伝えできればと思います。
どうぞよろしくお願いします。