うつ病の娘を抱えて【後編】

2016/02/25

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再発と再婚

Aさん夫妻は、うつ病が再発した娘と幼い孫娘を抱えて、毎日が戦いの連続でした。

還暦を過ぎると、体力も気力も急速に失われます。若い頃は何でもなくできたことが、60歳過ぎると大仕事になることもあります。

目の放せない娘を世話しながら、孫を育てるのは、並たいていの苦労ではありません。

 娘の症状は一進一退を続けました。

孫が成長するにつれて、Aさんはますます気を遣うようになりました。母親の異常な言動が、孫にどのような影響を与えるのか、心配でたまりません。

孫娘が大きな病気もしないですくすく育つことだけが、Aさんの救いでした。

 症状が改善すると、娘は外出します。Aさんと子供を連れてディズニーランドに行くこともあれば、友達とショッピングや食事を楽しむこともあります。

そのような時に、娘は男性に出会いました。

イラストレーターと自称する男性で、娘より3歳年下でした。

 娘から「再婚したい」と言われ、Aさんは驚きました。

Aさんは男性に会い、娘の病状や7歳になる女児がいることなど、包み隠さず話しました。男性は全部知っているようで、平然として「一人娘だから、婿養子にいってもいい」と、言います。

 

泥沼は続く

Aさんは悩みました。

イラストレーターと称しても、それほど仕事はないようです。Aさんの財産目当てで、娘と結婚するのかもしれません。

しかし、Aさんは、70歳近くになり、健康に不安も出始めました。

「いつまで娘の傍にいて、面倒を見てやれるだろう?」

孫娘には父親が必要かもしれません。

「彼はとてもやさしいの」という娘の言葉が、Aさん夫婦に決断させました。

 娘は再婚しました。しかし、男性を婿養子にはしませんでした。

Aさん夫婦は孫娘を自分達夫婦の籍に入れました。自分達夫婦に万一のことがあっても、孫娘に財産を残してやろうと考えたのです。

 娘は再婚後、Aさんの所有する賃貸マンションの一室で暮らしました。Aさんの住居も同じ階にあるので、娘の世話も、孫の面倒も見てやれます。

Aさんは、よくわかっていました。

娘は調子がいいように見えても、完治したわけではありません。ちょっとしたきっかけで、症状が悪化するのです。

朝は元気にしていても、昼過ぎから気分が落ち込み、夕方になると、すっかりふさぎこんでしまうことが珍しくありません。1日のうちでも、気分の変化が激しいのです。

母親の気まぐれな態度は、決して子供にいい影響を与えません。

孫娘は、自然と祖母の住居に入り浸るようになりました。

 

再婚後しばらくして、娘の症状が悪化しました。

新しい夫に辛辣な言葉を投げつけ、どなり、わめき、泣き叫びます。孫娘は、しばしばAさん宅に助けを求めて駆け込みました。

再婚相手はよほど我慢強いのか、娘が暴言を吐こうと何をしようと、平然としています。「離婚しよう」とも言いません。

ただ、外泊が多くなりました。

 

娘のイライラが激しくなりました。

夫が外泊した夜、娘は果物ナイフで手首を切りました。

パニック状態の孫娘の知らせで、Aさん夫婦が駆けつけ、救急車を呼びました。娘は一命を取り止め、そのまま、心療内科へ入院しました。

 

明日が見えない

娘は3ヶ月ほどで退院しました。

Aさんは孫娘と一緒に娘を引き取りました。まだ十歳の孫娘が二度と恐ろしい思いをしないように、娘から目を放さないつもりです。

娘の再婚相手は、離婚の申し出に応じません。そのままマンションに住み続け、時々、Aさん宅に顔を出します。

しかし、娘は夫を見ると不機嫌に黙り込みます。孫娘が両親の間でおろおろするのが哀れです。

 

3年ほどかかりましたが、Aさんはかなりの金額の慰謝料を渡して、再婚相手に離婚を承知させました。

 

Aさんは娘の世話をしながら、孫を育てました。

孫娘は、幼稚園から娘と同じ私立女子校に入りました。幼稚園の送り迎えも小学生になってからのピアノや水泳、英会話など習い事の送り迎えも、Aさんがしました。保護者会も、Aさんが出ました。

幸い、孫娘は母親の影響をそれほど受けることなく、成長しました。無事に中学へ進学し、来春は高校生です。

 

Aさんは75歳になりました。Aさんの夫は79歳です。

Aさんの夫は狭心症を患い、二年前、冠動脈バイパス手術を受けました。現在はふつうに生活していますが、冠状動脈硬化症は進行性の病気ですから、いつ、心筋梗塞を起こすか、わかりません。

Aさん自身も動脈硬化が進み、高血圧症に悩まされています。腰痛や膝の痛みが激しくなり、疲れがなかなか取れません。

娘は50歳近くなり、うつ病に更年期障害が加わりました。娘のイライラはつのり、感情の起伏も大きくなるばかりです。

 

Aさんは、娘と一緒に暮らすことが苦痛になってきました。

「この生活がいつまで続くのか?」「夫に万一のことがあったら、どうしよう?」

Aさんの不安は増すばかりです。

「孫娘が成人するまでは、死んでも死にきれない。まして、ボケたりできない」

Aさんは、明日の見えない生活を、今日も続けています。

この記事を書いたライター

潮美 瑶
潮美 瑶

人生とは「死に至る病」と申します。
生まれ落ちた時からゴールがわかっています。50歳を過ぎる頃から、ゴールが身近に感じられるようになります。
許されるものならば、できるだけ平穏にゴールを迎えたいと思っております。穏やかに、安らかに、悔いもなく、人生の幕を下ろせたら、どんなに幸せなことでしょう。見送る遺族の悲しみも、多少薄らぐことと思います。
終活情報を伝えることで、少しでも平穏にゴールを迎える役に立つならば、私自身にも大きな意味があります。