振り込め詐欺には、ついだまされる

2016/03/04

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息子夫婦との同居は難しい

F夫人は、86歳になります。

若いうちから「活動的なオバ様」として有名でした。

趣味が広く、洋裁・水泳・絵画・染物・籐細工・陶芸と、何でもこなします。お料理も得意で、ケーキやパンを焼いて、近所に配るのも楽しみの1つでした。

 子供は2人、上が女で、下が男です。

娘の結婚相手はエンジニアで、取締役まで出世して定年退職しました。

息子は大企業の営業マンで、順調に出世街道を進んでいます。上司の世話で結婚し、子供も2人できました。

 結婚当初、息子はF夫人と別居でした。時々、顔を見せに訪れました。妻が同行することもありました。

F夫人が74歳の時、夫が亡くなりました。

独り暮らしになったので、自宅を二世帯住宅に改造して、息子夫婦と同居しました。改築費用は全額F夫人の負担です。孫といっしょの生活に、F夫人は心を躍らせました。

ところが、同居してみると、息子の嫁さんとうまくいきません。

料理や掃除の仕方・子供のしつけなど、何もかもF夫人は気に入りません。それでも「嫁さんとの間に波風を立てるまい」と、F夫人は我慢しました。

しかし、子供が事故にあったことから、F夫人とお嫁さんは大喧嘩になりました。「事故の原因は母親にある」としか思えず、お嫁さんに注意したのです。

息子は全面的にお嫁さんの味方でした。

「お袋とは一緒に暮らせない」と、あっさりF夫人宅を出て行きました。

息子夫婦はお嫁さんの実家近くに住むことになり、F夫人には、めったに電話もしてきません。

 

疎遠になった息子からSOS!

娘はF夫人に似て多趣味です。

娘の頃からフラワーアレンジメントや彫金などに熱中していましたが、一人息子が大学を卒業すると、社交ダンスにはまってしまいました。レッスンに通うだけでなく、デモンストレーションや競技会にも出場します。

夫婦仲も円満で、夫と2人でちょくちょく旅行に出かけます。海外に行くと、1週間は帰って来ません。

F夫人と娘は「仲良し母娘」ですが、趣味や旅行で忙しく、娘もF夫人を訪れる暇がありません。

80歳を過ぎる頃から膝が痛くなり、好きな体操教室に通えなくなりました。

リハビリのつもりで水泳教室は続けていましたが、親しい仲間が老人ホームに入所したりして、F夫人は寂しさが増すばかりでした。

杖を使わないと歩けなくなり、あれほど「お出かけ好き」だったのに、家に閉じこもってTVを見ていることが多くなりました。

物忘れが激しくなり、「何をどこにしまったか?」「今日は何曜日で、何をする予定だったか?」が、わからなくなることも、しばしばです。

 ある日、久しぶりに息子から電話がありました。

「ああ、母さん、俺だけど、元気?」

「元気か」と聞いてくれるだけで、F夫人は有頂天です。

息子は夫人の近況を尋ね、しばらくおしゃべりしました。

「また電話する」と言って、息子は電話を切りました。

それから2~3日おきに電話がかかり、F夫人はうれしくてたまりません。

いつか、電話の前で、息子からかかるのを待ちわびるようになりました。

 5回目くらいだったでしょうか、息子の声が少し変わって聞こえました。

「母さん、困ったことになった・・・」

「どうしたの?」と、尋ねるF夫人の声も震えます。

「うっかり変なサイトにひっかかってしまって・・・400万円支払わないと、訴えられてしまう・・・」

息子はインターネット用語を並べ立てて説明しますが、F夫人にはわかりません。わかったことはただ1つ、「400万円支払わないと、息子が刑事告訴される」ということだけです。

 

私のお金なのに・・・

刑事告訴などされれば、息子の将来は真っ暗になります。

F夫人は400万円を息子に渡すことに決めました。幸い、夫の残した預金があります。

「俺は今、ここを離れられない。親友に取りに行ってもらうから、渡してくれ。母さんもよく知っている男だよ」

息子の言う○○という名前には、記憶がありません。顔も浮かんできません。でも、最近では、人の名前や顔が思い出せないことが、よくあります。

F夫人はすぐに銀行に行きました。

銀行の前には、若い男が立っていました。「ああ、おばさん、久しぶりです」と、親しげに話しかけます。

F夫人は男の顔に覚えがありません。けれど、男に急かされるまま、窓口で400万円を払い戻してもらいました。

 銀行の窓口の人も、振り込め詐欺の警戒に来ていた婦人警官も、F夫人に400万円の使用目的を尋ねました。F夫人は「刑事告訴」を恐れていましたから、

「私のお金を、私が何に使おうと、勝手でしょ!」と言い張り、本当のことは一言も言いません。

400万円を引き出し、息子の親友という男に渡しました。

 2日経ちましたが、息子から何の連絡もありません。

F夫人は心配でたまらなくなり、息子の会社に電話してしまいました。

息子はびっくり仰天しました。

「お袋、オレオレ詐欺にひっかかったんだよ!ぼくは400万円なんて、頼んだ覚えはない。ボケちゃって、どうしようもないな」

 翌日、息子から連絡を受けて、娘が飛んで来ました。

娘は、F夫人から預金通帳と印鑑を取り上げ、キャッシュカードだけ残しました。それも、1日1度10万円までしか引き出せないようにしました。

土地の権利証なども全部、娘が持って行ってしまいました。

 息子とは疎遠なままですが、娘は、1週間に2度くらいは訪ねて来るようになりました。独り暮らしの母親が心配なのでしょう。

そのことは、うれしいのですが、Fさんは時々不満に思います。

「私のお金なのに・・・なんで好きに使えないの?」

この記事を書いたライター

潮美 瑶
潮美 瑶

人生とは「死に至る病」と申します。
生まれ落ちた時からゴールがわかっています。50歳を過ぎる頃から、ゴールが身近に感じられるようになります。
許されるものならば、できるだけ平穏にゴールを迎えたいと思っております。穏やかに、安らかに、悔いもなく、人生の幕を下ろせたら、どんなに幸せなことでしょう。見送る遺族の悲しみも、多少薄らぐことと思います。
終活情報を伝えることで、少しでも平穏にゴールを迎える役に立つならば、私自身にも大きな意味があります。