相続対策という対策はない【後編】

2016/03/25

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銀行は高利貸?

2人の娘はマンションの土地・建物を担保にして銀行から融資を受け、コンサルタントに勧められるまま、アパート1棟とマンション1フロアを購入しました。

H夫人の相続対策ですから、H夫人が借金しなければなりません。担保にする土地・建物もH夫人名義です。

H夫人に「相続対策」などと言えば、「私に早く死ねと言うのね!」と泣き出すので、夫人の了解を得ることはできません。

長女が権利証や実印を預かっていましたから、H夫人に無断で融資を受ける手続きをしました。銀行は異議を唱えず、融資を実行しました。

いずれ相続が起きた時に「借金が必要になる」ので、相続が起きるまでは利息だけを支払います。それも、最初の3年間は低利息で、その後、利率が上がっていくという仕組みでした。

娘達も銀行も、「数年以内に相続が起きる」と見ていたのです。

ところが、3年が過ぎても、H夫人は元気そのものです。

血圧とコレステロール値が高く、心臓も少し肥大ぎみですが、薬さえきちんと服用していれば、寝込むようなことはありません。食欲も衰えず、真夏の昼食に特上の鰻重を御飯粒1つ残さず平らげます。

銀行の金利が跳ね上がりました。

収入ぎりぎりの生活なので、貯えがほとんどありません。

「0金利時代」と言われますが、銀行が融資する時の金利は、預金金利100倍以上です。利息のみ支払う場合は、利率が普通より高くなります。

融資金額が大きいので、利率が跳ね上がると、利息だけでも高額になります。

2人の娘は相談して、H夫人の定期預金を崩して利息を払うことにしました。

これもH夫人に無断で、長女が手続きしました。

利息は3ヶ月毎に年4回支払います。数年間、利息を支払い続けた結果、H夫人の定期預金は大幅に減少しました。

 

お母様はお元気ですか?

20年近く経ち、マンションは大規模な修理が必要になりました。

銀行に修築費用の融資を申し込みましたが、承知してくれません。娘達は、またH夫人の定期を解約して修築を行いました。マンションの空室を減らすためには、リニューアルが必要だったのです。

H夫人の定期預金は残り少なくなりました。

これ以上、高い利息を支払うことはできません。娘達は購入したアパートとマンションの部屋を売却して、借入金を返済することにしました。

ところが、アパートもマンションのフロアも売れないのです。

ちょうど不動産不況の真最中で、大手不動産業者が倒産する始末です。買手がついても、足下を見て買いたたかれました。

相続コンサルタントは、今になって「アパートは土地付きですから、資産価値があります。マンションのフロアを買っても、資産にはなりませんよ」と、言います。

娘達・・・長女は65歳を過ぎ、次女も60歳を越えました。

長女の夫は取締役の定年を迎え、次女の夫の会社は廃業せざるを得ない状態で、老後の生活は、マンションの賃貸収入が頼りです。なんとしても、マンションだけは確保しなければなりません。

購入した不動産を処分しても、銀行からの借金は半分近く残りました。利息の支払いも大変です。

H夫人の住居が建つ土地を追加担保に入れて、利率を抑え、相続が発生するまで元金返済を待ってもらうという契約を結び直しました。

それからというもの、銀行の担当者は、娘達に会うたびに尋ねます。

「お母様は、お元気でいらっしゃいますか」

「はあ、おかげさまで・・・」

「それは、けっこうでございますね」

何気ない会話ですが、H夫人の死を待っているような気がしてなりません。

 

何もかも消えてしまった

ついにH夫人は、定期預金がほとんどなくなったことに、気づきました。

H夫人は足腰が弱ってきたので、自宅をバリアフリーに改装することにしました。二階に長女の家族が住む二世帯住宅ですから、かなり広い家です。エレベーターも取り付ける予定です。改装費用は1,500万円以上かかります。

娘達が渋ると、H夫人は怒りました。

「私のお金で、私の家を改装するのだから、文句はないでしょう」

「お母様のお金は、改装費を払ったら、ほとんど残らないわ」

長女は何もかもH夫人に話しました。

「お金がなくなった・・・」

H夫人にはショックでした。

今まで、お金の心配など1度もしたことがないのです。「お金がないから、○○できない」と言われたことも、1度もありません。

H夫人は呆然として口も利けなくなり、寝込んでしまいました。

食欲もなくなり、娘達の顔を見ようともしません。1日中ベッドで過ごすようになり、入浴も着替えもしなくなりました。

うつ状態に陥り、認知症も出てきたようです。

娘達はH夫人を入院させました。

H夫人は、自分がどこにいるかもわからないまま、病院で亡くなりました。

ついに相続が発生しました。

銀行は契約に従って、借金の返済を求めました。相続税も何もありません。マンションから自宅まで、すべて銀行に取られてしまいました。

相続対策という対策はないのです。

この記事を書いたライター

潮美 瑶
潮美 瑶

人生とは「死に至る病」と申します。
生まれ落ちた時からゴールがわかっています。50歳を過ぎる頃から、ゴールが身近に感じられるようになります。
許されるものならば、できるだけ平穏にゴールを迎えたいと思っております。穏やかに、安らかに、悔いもなく、人生の幕を下ろせたら、どんなに幸せなことでしょう。見送る遺族の悲しみも、多少薄らぐことと思います。
終活情報を伝えることで、少しでも平穏にゴールを迎える役に立つならば、私自身にも大きな意味があります。