後見人もあてにならない Part2

2016/04/05

1af7622f7e4834ccf690a8f2982e7783_s

ベッドから落ちた!

Kさんの膝はますます痛むようになりました。

正座ができなくなり、低いイスに腰かけて、お点前を教えました。

Kさんは、外出するのがおっくうになりました。

足首は象の足のように膨れ、足袋のコハゼを止めることができません。毎週2回、お茶の教室の時に和服に着替えるのも面倒です。お教室がない日は、パジャマのまま化粧もせず、ごろごろ寝ていることが多くなりました。

茶道教室では、古いお弟子が頼りです。

60歳近い門弟のNさんは、しっかりした独身女性で、Kさんが半ば趣味でしている仲人業も、てきぱきと手伝ってくれます。

賃貸マンションは管理会社に任せていましたが、新規の入居者が集まらず、家賃収入は激減しました。不動産屋は売却を勧め、Kさんもその気になりました。修繕費ばかりかかるのに、嫌気がさしたのでしょう。

不動産屋は売却先を探し始めました。

ある朝、Kさんはベッドから落ちました。手足が全く動きません。

運よく宅急便のお兄ちゃんが荷物を届けに来たので、Kさんは声をふりしぼって助けを求めました。

「整体師のTさんを呼んできてください」

Tさんは5年前から鍵を預かっています。Kさん宅に駆けつけて、門弟のNさんに連絡しました。

Kさんは、TさんとNさんの顔を見て安心したのか、放心したようになりました。身動きもできず、口もろくに利けません。

Nさんは救急車を呼んで病院に運び、Kさんを緊急入院させました。

 

後見人VS親戚

「俺は正式な後見人だ。法的な手続きも、ちゃんとしている」

整体師のTさんは、Nさんに主張しました。

「Kさんの実印や預金通帳、権利証などは、全部、俺が預かる」

Nさんは腰痛で悩み、数年前からTさんの施術を受けていましたから、Tさんをよく知っています。「成年後見人」であることは初耳でしたが、全面的に信用しました。

Nさんは茶道教室を手伝っているので、Kさんの家の中を知り尽くしています。引き出しをかき廻して、実印や銀行通帳、重要書類などを探し出し、Tさんに渡しました。

TさんはKさんのマンション売却も知っていて、「俺が代行して売却する」と、胸を叩きます。

NさんもTさんも、Kさんの従弟に連絡しませんでした。

「ふだんから親しくしているわけじゃない。今さら口出しされちゃたまらない」

「K先生のお茶道具は、それほど高価ではないけれど、一通りそろっています。従弟なんかに勝手に持ち出されたりしたら、先生に申し訳ないわ」

Nさんの本音は、茶道具などどうでもいいのです。狙いは、Kさんが趣味でしている仲人業の顧客情報です。

これからは、茶道教室より仲人業の方がお金になります。NさんはTさんと組んで顧客関係の書類を持ち出すつもりです。

 Tさんは不動産屋とも親しいので、マンションの売却を進め、後見人として「手数料」をたっぷり稼ぐつもりです。Kさんの従弟に出て来られては迷惑です。

しかし、茶道教室の古いお弟子さんの中には「御親戚なのだから、連絡すべきだ」と言う人もいます。お弟子さんの1人が、従弟のWさんに電話しました。

Wさんは70歳を過ぎて脳梗塞を患い、リハビリ中でした。Wさんの代わりに娘さんが病院に駆けつけました。40代前半の独身女性です。

入院したKさんは高熱が出て、意識が朦朧(もうろう)として、食事も自分では食べられません。身体中の痛みを訴えるのですが、言葉もはっきりしません。

Wさんの娘は、医師に親戚であることを主張し、病状を尋ねました。しかし、医者は病名を特定することができません。

膝関節の軟骨がすり減っているだけで、脳には全く異常がなく、癌の再発や転移もないのです。発熱の原因も不明です。

Wさんの娘が病院に来たので、Tさんは怒りました。

T さんは、医者と娘さんに「わたしが後見人だから、すべて任せてもらう」と宣言しました。治療方針も何もかもTさんが決めると言うのです。

 

後見人VS区役所

娘さんは、Kさんが住む地区の区役所に相談しました。

区役所は、区民の生活を支援するために様々な事業を行っています。地区包括支援係の人が応対し、すぐに弁護士を紹介してくれました。

Wさんの娘は、弁護士に教えられた通り、Tさんから「後見人契約書」のコピーをもらい、地区包括支援係と弁護士に見せました。

すると、弁護士は「Tさんは、まだ成年後見人ではありません」と言います。

任意後見人であっても、「Kさんが認知症などで判断能力を失った」と判断されない限り、契約は効力を発揮しません。しかも、家庭裁判所に申立てて、後見監督人を選定してもらう必要があります。

「非常によくない状況です」と、弁護士は難しい顔をしました。

入院して10日も経つと、Kさんは回復し始めました。

熱も下がり、言葉もはっきりしてきました。手足が動かないだけです。

耳が遠いので受け応えがトンチンカンになったり、同じ話を何度もくり返したりしますが、入院するまで火の用心も戸締りもしっかりしていましたから、認知症とは思われません。

Wさんの娘は区役所の人や弁護士といっしょにKさんに会い、「実印など重要な物」は区役所に預けるように説得しました。

Kさんは渋々ながら納得しました。

しかし、Tさんは納得しません。

「W一家はKさんの財産を乗っ取るつもりだ。区役所はWの娘に踊らされているだけだ。実印も通帳も権利証も渡すことはできない」

この記事を書いたライター

潮美 瑶
潮美 瑶

人生とは「死に至る病」と申します。
生まれ落ちた時からゴールがわかっています。50歳を過ぎる頃から、ゴールが身近に感じられるようになります。
許されるものならば、できるだけ平穏にゴールを迎えたいと思っております。穏やかに、安らかに、悔いもなく、人生の幕を下ろせたら、どんなに幸せなことでしょう。見送る遺族の悲しみも、多少薄らぐことと思います。
終活情報を伝えることで、少しでも平穏にゴールを迎える役に立つならば、私自身にも大きな意味があります。