データでわかるライフエンディング【vol.8】口腔ケアと健康

2016/05/16

健康は口元からという言葉を耳にしたことがあると思いますが、口腔内の状態はからだの健康と密接に結び付いています。自分の歯でしっかり噛むことが、食事をおいしくとるポイントです。「歯で噛むことでおいしく食べられる」という表現は決して大げさなものではなく、噛むことによって食物の温度、舌触り、歯ごたえ、味などといった様々な感覚を脳に送っているのです。よく噛み味わって食事をすることは、脳を刺激し精神的な満足にもつながりますし、ぼけ防止にも役立つと言われています。

しかし年齢を重ねるにつれて、残っている自身の歯の数は少なくなっていくのが実情です。歯の数の平均値のグラフを見ていきましょう。

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15歳から44歳までは約28本あった歯が、45歳から54歳を境に減少し、65歳から74歳では19.16本。そして75歳以上では13.32本にまで減っています。自分の歯がなくなってしまったところは差し歯や入れ歯などで補完し、自分に合った方法でしっかりと噛めるようにメンテナンスすることが必要です。

食事をとるために口腔内のケアが必要だと前述しましたが、もっと大きなくくりでいうと高齢者が元気に長生きするためには口腔内の健康が大切といえるでしょう。東京都老人総合研究所が掲げている「元気で長生きの10カ条」にも、咀嚼力低下の予防が重要だとあげられています。「咀嚼力」とは摂取した食物を歯で噛み砕く力のことを指し、この咀嚼が消化を助けて栄養の摂取を促します。噛む力が衰えると食事の量が減少し、十分な栄養補給ができない状態となってしまいます。

咀嚼がうまくできなくなると、口腔内の食物を胃に送り込む嚥下(えんげ)機能も低下します。私たちは普段、意識せずに食物を口腔内で認知して胃に送り込み消化していますよね。しかし老化や病気などによって、ものが飲み込みにくくなったり、飲み込めはしても肺のほうに入ってしまったりすることがあります。これを摂食・嚥下障害といい、咀嚼力の低下、そして脳卒中や頭部外傷、神経疾患などで神経の経路が傷付いたことが原因となり起こる障害です。

嚥下障害によって食べ物や飲み物、胃液などが気管や気管支に入ってしまうという「誤嚥(ごえん)」が起こります。誤嚥は「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」を引き起こすとても恐ろしい症状です。

肺炎で亡くなる日本の高齢者は大変多く、誤嚥性肺炎は高齢者の肺炎の70%に関係しているといわれています。高齢者の主な死因は次のグラフのとおりです。

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悪性新生物(がん)、心疾患に続き肺炎は高齢者の死因第3位。割合としては10%を占めています。要するに10%の7割である全体の約7%が、誤嚥性肺炎での死亡ということになります。誤嚥性肺炎とは細菌が胃液や唾液とともに肺に流れ込んでくることで起きる肺炎です。抗菌薬で治療しますが、再発を繰り返すため抵抗性を持つことも多く、医療が発達した今日でも治療が難しい肺炎です。

誤嚥性肺炎を防ぐには食事の体位保持など、複数の方法を組み合わせる必要がありますが、口腔ケアも大切な予防策の一つとなっています。口腔ケアは口の中を掃除して清潔に保つことが目的ですが、歯磨きと同じではありません。口腔ケアには「器質的(きしつてき)口腔ケア」と「機能的口腔ケア」があります。前者では歯だけでなく、ほほの内側、歯茎、舌にも付着した、食べかすや汚れを取り除き細菌の繁殖を防ぎます。後者の「機能的口腔ケア」は口の機能を回復させ、維持、向上するためのケアを指します。噛む、飲み込む、笑うなどといった口が本来持っている働きをスムーズに行えるようにする、口のリハビリです。

口腔ケアと肺炎の予防の関係について、次のグラフをご覧ください。

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口腔ケアを行うことで微熱の発生、肺炎の発生、肺炎死亡者が減少していることが読み取れます。口腔ケアが必要となる高齢者には要介護者であったり、認知症であったりする人が多いです。ご家族が行うのは難しいようだったら、ご自宅まで来てケアをしてくれる在宅歯科や歯科衛生士を利用してはいかがでしょうか。在宅訪問の歯科であっても通常の歯科と同様に保険が適用でき、自己負担額は1から3割が原則です。是非活用してみてくださいね。

老化により歯を失うことは致し方ないことと思われがちですが、歯を失う理由であるむし歯と歯周病は細菌感染による病気ですので、口腔内を清潔に保つことで予防できます。自身の歯が残っているほど老後健康に過ごせるという話もありますので、まず自分の歯を大切に残すよう努力し、それでも歯を失ってしまったら定期的に義歯のメンテナンスをすることが大切です。自分や大切な人の口腔内の状況を知ることが、口腔ケアのはじめの1歩なのですね。