データでわかるライフエンディング【vol.9】高齢者と地方移住

2016/05/25

定年退職を迎えた高齢者が自分らしくセカンドライフを送るための選択肢に「移住」というものがあります。仕事や家族の教育という価値観を基に居を構えていた現役時代を離れ、そういった枠組みにとらわれずに好きな場所でリスタートする。セカンドライフをどう生きるかにおいて、移住は重要なキーワードのひとつとなっています。「データでわかるライフエンディング」第9回の今回は、高齢者と地方移住について考えていきましょう。

シニアの移住でかつて注目を集めたものに海外移住がありました。物価が安い海外で、日本よりも割安にゴージャスな生活を送る。マレーシアやフィリピン、タイなどが人気の移住先です。笑顔のシニアが映る華やかな画像がテレビで流れているのを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし言語や健康、家族の病気や死去などといった環境の変化、コミュニティ形成の難しさなど、海外移住の壁は決して低くないことも同時に伝えられています。

今回取り上げるのは海外への移住ではなく、国内の首都圏に居住している高齢者が地方へ移住するという「地方移住」です。東京圏に人口が密集している我が国では、75歳以上の後期高齢者がこれからの10年間で175万人増加するといわれています。高齢者の増加により、高齢者が十分な医療や介護を受けられない問題が発生すると予測されているのです。介護を受けることができない高齢者を指し示す「介護難民」という言葉も生まれ、年々増加する「介護難民」の解消は日本社会全体の課題となっています。

民間の有識者から成る日本創生会議は2015年6月に介護問題解決法のひとつとして「地方移住」を提言しました。東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県から函館、青森、富山、福井、岡山、松山、北九州など、一定の生活機能を満たした都市部への移住を推奨するという提言です。

この提言を一般の人たちはどのようにとらえたのでしょうか。地方移住提言への賛否の調査結果は次のとおりです。

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賛成が52%、反対は48%と、それほど差はありませんが過半数以上がこの提言に賛成していることがわかりました。それでは、この提言を受けて実際に自分が移住したいと思ったか否かについて、調査した結果を見てみましょう。

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「移住したいと思う」と回答した割合は17%。「移住したいと思わない」と回答した人数は83%で移住したいという回答者を大きく上回りました。「移住したいと思わない」と回答した人たちに、どういった懸案事項が解決すれば地方移住を考えられるようになるかという質問をしたところ、最も多かった回答は「何が解決されたとしても地方移住を考えることはできない」の43.3%。次いで「医療や介護施設の充実度によっては地方移住を考える」の26.3%。「住居費など金銭の問題が解決されたら」が18.8%、「友人や知人と一緒に移住できるなら」が11.6%という調査結果でした。

高齢者の地方移住に賛成かどうかというデータと、地方移住したいと思うかという質問のデータとは乖離した数値が出ていることが読み取れます。政策自体には賛成だが、いざ自分が移住するとなるとしたくないというのが多くの人の気持でしょうか。

住み慣れた土地を離れるのは抵抗があるのは当たり前ですし、セカンドライフで大切にしたい事柄の優先順序も個人によってそれぞれでしょう。セカンドライフを過ごす場所を選択するときに重視する条件について、調べたデータを見ていきたいと思います。

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「医療・介護体制の充実」が最も多い37%。健康や生活を不自由なく送ることができることが人生の大前提なのですね。しかし、ただ生きているだけでは満たされないのが人間です。身内や知り合い、趣味の充実といった心の豊かさもセカンドライフにとって欠かせない要素だということが伝わってくるでしょう。「働く場がある」9%、「物価が安い」5%から、余裕があるとは言い切れない高齢者の財布事情が伺えます。

もし地方移住の提言に強制力が加わってどうしても移住しなくてはいけない場合、人気があった移住先は1位沖縄県宮古島市、2位石川県金沢市、3位岡山県岡山市でした。気候のよさや、観光地として親しみがあることが人気の理由かもしれません。地方移住は乱暴な策だという意見もありますが、これからの日本の介護に関して何らかの解決策が必要なのは明白であり、私たちは介護を自分の問題としてとらえなければならないときを迎えているのです。