【書評】 上野千鶴子:おひとりさまの最期【終活本】

2016/07/15

ohitorisama

「いまや独居老人は普通のことになった」

「在宅ひとり死は孤独じゃない」

このように主張し「高齢者の『在宅ひとり死』」を提唱するのは社会学者でジェンダー論が専門の上野千鶴子氏。

長年、フェミニズム・ジェンダー論を専門領域として活躍してきた上野氏は、ここ数年「終活」に対する関心を強めている。

なぜ「ジェンダー」と「終活」、一見関連性のない話題のように感じるが、本著の主張を丹念に読み取れば、ジェンダーの本質である「家族制度」と「終活」つまり老後の人生が深いかかわりを持っていることに気づかされる。また1948年生まれの上野氏にとって自身が熟年の仲間入りをしはじめたことにも関心の遠因があるのだろう。

実際、本著の「はじめに」には、67歳を迎えた著者の、率直な気持ちが綴られている。

「順調に加齢を続けれ、わたしもついに高齢者の仲間入りをしました。体力も記憶力も低下し、順調に加齢しつつあります。」

「ここ数年、親しかった友人たちの死を身近に経験して、そうか、死は遠くにあるのじゃなくて、隣にあるんだ、という気分になってきました。」

自身も齢を重ね、 同年代の友人の死や体力の衰えを経験し「終活」を真剣に考えはじめた上野氏。

しかし氏のユニークな所は、終活においても「じゃあ良い施設を選んで…」などという当たり前の解決策を選ばない点にある。

自らの終活を鑑みた氏は、現在日本のライフエンディングのありかた、また高齢者の家族のありがたそのものに、深い疑問を投げかけ始めるのだ。

 

今や誰もが「独居老人」

上野氏は、近年傾向として高齢者の「独居化」が進行していると指摘する。

国立社会保障・人口問題研究所の発行する
「世帯主65歳以上の世帯別構成比率の変動と将来推計」によれば、

65歳以上の「単独世帯」、つまり独居老人は2015年時点で全体の31.8%、2020年には33.3%にまで上昇するとされている。

少子高齢化が進み、子供や孫とのつながりが薄くなった、いやそもそも子供や孫を持たない高齢者も多いのだろう。

現に上野氏自身未婚であり、上野氏の周囲にも子なし・未婚の知人友人が極めて多いと綴られている。

つまり、今や誰もが「独居老人」になりかねない時代なのだ。

上野氏はこれを「み~んなおひとりさま時代」と表現している。

そんな「おひとり様世代」の現在の高齢者は、老後をどう乗り切ればよいのか。

本著のテーマの中心は、そこにあると言えるだろう。そして上野氏の答えは「独居を恐れるな」というものだ。

 

「高齢独居」は孤独じゃない

「高齢独居」と「孤独」は決してイコールではない。

本著の中心的な主張は、そこに集約されるだろう。

家族とは単に血縁でつながった他人であるに過ぎない。自分のことを無条件に世話してくれる存在とは考えるべきではない。そんな不確かなものに頼るより、友人・知人の交わりや、訪問看護などのサービスに頼った方が合理的ではないか…?

上野氏は、そう考える。

血縁や家族に対しては思い切った発言も多い。例えば第4章にはこんな記述もある

「それなら…と素朴な疑問が浮かびます。自分の持ち家があるのに、なぜ家に住み続けられないのか、と。理由の第一は、同居家族がいるから、というものです。え、逆じゃないの、とお思いでしょうか。そうではありません。同居家族がいるからこそ、施設や病院に送り込まれます。」

氏の主張としては、「同居家族がいるからこそ、持ち家を追い出されて施設に入れられるリスクもある」というものだろう。「家族はセーフティネット」という考え方を真っ向から否定する「家族は潜在的リスク」とする考え方だ。

家族の絆や親子の愛情を所与のものとする方には受け入れがたい考え方かもしれない。

しかし上野氏としては、家族に頼らない自立的な精神こそが老後の「死の自己決定」「在宅ひとり死」に不可欠という考え方なのだろう。

誰もが強くは生きれない。

上野氏の老後観は力強い。

ひとりで生き、ひとりで死ぬ。
ひとりで死ぬことは決して孤独ではない。

これは、頼るべき家族のいない「独居」を宿命づけられている高齢者(また、その予備軍)にとっては、ある意味救いとなるような指針だろう。

しかし、と評者としては思わないこともない。

誰もが上野氏のように、強く生きられるのだろうか。

上野氏は「はじめに」でも

「死んだあとのことなんか、気にしちゃいない」

と語っているような、高齢にあっても「死」や「死後」について頓着しない、強い精神の持ち主だ。

また執筆・講演などで活躍し続ける文化人であり、経済的にも余裕のある方だろう。

こういったある種の「強者」だからこそこのようなライフスタイルを選択できるのであって、精神的・文化的・経済的に上野氏のように強くなれない我々大衆は、様々な問題を抱えながらも「家族」という靭帯に依存し続けなければならないのではないか。そういう思いもある。

何にせよ、単独世帯の高齢者増加は無視できない事実だ。

上野氏はその現実に関してひとつの観点を提示していることは確かだろう。

「死に場所難民」とも呼ばれる高齢者の居場所問題がどんな帰着を見るのか。未来を占うひとつの資料として、本著は何かしらの材料を与えてくれるだろう。

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この記事を書いたライター

小山 晃弘
小山 晃弘

ブロガー、フリーライター。
セラヴィ」「リクナビNEXTジャーナル」「ASREAD」など、さまざまな商業Webメディアで活動中。
ライブドアブログ OF THE YEAR 2015受賞

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